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東京高等裁判所 昭和43年(ネ)2480号 判決 1969年6月10日

控訴人(附帯被控訴人)(被告)

高橋一夫

被控訴人(附帯控訴人)(原告)

橋田麗子

主文

一、原判決主文第一項を次のとおり変更する。

控訴人は被控訴人に対し、金五〇万六九六円およびこれに対する昭和四一年一二月三〇日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

二、その余の控訴ならびに附帯控訴による請求をいずれも棄却する。

三、訴訟費用中、附帯控訴費用は附帯控訴人の負担とし、その余は第一・二審を通じこれを一〇分し、その三を被控訴人、その七を控訴人の負担とする。

事実

控訴人(附帯被控訴人。以下、単に控訴人という。)訴訟代理人は、「原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、附帯控訴について、附帯控訴棄却の判決を求めた。

被控訴人(附帯控訴人。以下、単に被控訴人という。)訴訟代理人は、控訴棄却の判決を求め、本訴請求金額を原判決主文第一項のとおり減縮し、附帯控訴として、「控訴人は被控訴人に対し、金三〇万円およびこれに対する附帯控訴状送達の日の翌日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。附帯控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠の関係は、次に記載するほかは、原判決事実摘示と同じであるから、これを引用する。

被控訴人訴訟代理人は、

一、原判決事実摘示中、請求原因「三、損害の種類と数額」の(ロ)「金八万七、八〇〇円」入院治療代等を「金八万四、六六五円」に、(ハ)「金四万六、二〇〇円」付添看護人費用を「金四万六、一九五円」に、右(イ)ないし(ホ)の合計「金七一万八、四二〇円」を「金七一万五、二八〇円」に、それぞれ減額する。

二、附帯控訴により、原判決事実摘示請求原因三、(イ)記載の慰藉料金一〇〇万円のうち原審において請求をしなかつた金五〇万円中金三〇万円およびこれに対する附帯控訴状送達の日の翌日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」

と述べ、立証として、当審における被控訴人本人尋問の結果を援用した。

理由

一、本件事故の発生、ならびに控訴人が被控訴人に対し自動車損害賠償保障法第三条の規定により本件事故により生じた損害を賠償すべき義務があることは、原判決理由一項の初から原判決四枚目裏八行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

二、次に被控訴人の受けた損害を検討する。

(一)  財産上の損害

被控訴人が本件事故後、入院治療代等として金八万四六六五円、付添看護人費用として金四万六一九五円、自動車代として金五八六〇円をそれぞれ支出したこと、本件事故当日から四ケ月間、休業により金七万八五六〇円の得べかりし収入を失つたことは、原判決理由二項の(ロ)ないし(ホ)記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

(二)  慰藉料

〔証拠略〕を総合すると、被控訴人は、昭和一九年五月二六日生れで、高校卒業後、会社勤めをしていたこと、本件事故により事故当日の昭和四一年一月一九日から同年四月三日まで入院したこと、そして、鼻の下の右側に三、四針縫つた長さ二、三センチメートルの本件事故による傷痕があり、化粧でかくしていること、現在は結婚して長男も生れ、家業の菓子屋を手伝つているが、いまだに天気のよくない日や寒いときは頭や足の具合が思わしくなく、平素計算関係のような仕事が出来ないでいることが認められ、その他諸般の事情を考慮すると被控訴人に対する慰藉料額は、原審の認定したとおり、金五〇万円をもつて相当であると認める。

したがつて、被控訴人の受けた損害は、右(一)と(二)の各金額の合計金七一万五二八〇円である。

三、そこで、過失相殺の点を検討する。

〔証拠略〕を総合すると、

1  本件事故の発生した現場は、群馬県邑楽郡大泉町大字吉田二四七九番地の五〇先の県道赤岩大泉線道路上で、東武バスの吉田工場団地前、赤岩行(東側)停留所標柱付近であること、右現場付近における右県道は幅員約八メートルのほぼ南北に直線の平坦な砂利を敷いた道路で、当時晴天で見とおしは良かつたこと、

2  被控訴人は、当時、右停留所で、南行する赤岩行バスの進行方向左側中央付近乗降口から降車して立ち止まり、他の乗降客がなく直ちに発車したバスの後部が被控訴人の前を通り過ぎてから、バスの直後を、県道から西に入る勤務先三和ケミカル株式会社の入口に通ずる道に向つて、県道に対し直角に横断を始めたこと、その際、被控訴人は右側(北方)からバスに後続する車両の無いことを確めただけで、左側(南方)から進行して来る車両の有無を十分確認しなかつたため、控訴人運転の貨物自動車が北進して来るのに気付かなかつたこと、

3  控訴人は、前記県道上をその頃北進中であつたが、前記バスが前記停留所に停車した後発進態勢にあつたことを現認しながら、前記県道の中央より左側部分を中央に寄つて、時速約三五キロメートルのまま進行し、また、その運転する貨物自動車の幅が一・五九メートルであるので、更に道路の左側に寄つて進行することも出来たのに、そのまま直進し、およそ五メートル手前になつて、はじめて横断中の被控訴人を発見し、急制動をかけたが及ばず、道路の中央より西側の地点において、被控訴人と右貨物自動車のボンネツト前部付近とが衝突したこと、

が認められ、〔証拠略〕中右認定に反する部分は信用せず、ほかに右認定を覆すに足る証拠はない。

ところで、歩行者が原則として車両等の直前又は直後で道路を横断してはならないことは、道路交通法第一三条の規定により明らかである。しかるに被控訴人は、前記認定事実によれば、発車したバスの直後で道路を横断しようとし、バスの反対方向から来る車両の有無を十分確認しないで控訴人の運転する貨物自動車の進路上に進出したためにこれと衝突したものであるから、本件事故の発生については、被控訴人の過失も大きい原因となつていることが明らかである。

しかしながら、他方、自動車運転者は、自車と反対方向に進行するバスが停留所を発車した直後に、そのバスの右側を通過しようとするときには、降車客等歩行者が不用意にもバスの背後から自車の進路上に進出して道路を横断するような事例がままあることに注意し、あらかじめ減速していつでも直ちに停車することが出来るように徐行し、しかも、バスとの間隔を広くとつて前方を注視する等の運転方法をとり、もつて事故の発生を未然に防止すべき注意義務がある。ところが、控訴人は、前記認定事実によれば、バスの背後から道路を横断する者はいないと軽信し、除行もせず、バスとの間隔を広くすることもせず漫然進行したため、被控訴人を発見して急制動をかけたが間に合わず被控訴人に自車を衝突せしめたものであるから、本件事故の発生について控訴人に過失があることは明らかであり、控訴人主張のように本件事故の発生は被控訴人の一方的過失に基づくと認めることはできない。

そして、控訴人の右過失と前示被控訴人の過失とは、前記認定事実からみると、前者が七、後者が三の割合と解するのが相当であるから、前記被控訴人の損害金七一万五二八〇円のうち、控訴人に賠償させる範囲は、金五〇万六九六円をもつて相当と認める。

四、以上の次第であるので、被控訴人の本訴請求は、金五〇万六九六円およびこれに対する本件事故発生の後である昭和四一年一二月三〇日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は失当である。よつて、これと異なる原判決を右のように変更し、被控訴人の附帯控訴による請求を棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九六条、第九二条、第八九条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中西彦二郎 坂井芳雄 平田孝)

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